荒野のアサイラム2007 レビュー

きっかけは2007年春のタテタカコさんの桜坂劇場でのライブでした。打ち上げの席で、沖縄でタテさんとeastern youthのライブをやってはどうかと盛り上がったのです。その時は、奈良美智さんのドキュメンタリー映画「NARA〜奈良美智との旅の記録」が公開された時期で、エンディングテーマには、eastern youthの「荒野に針路をとれ」が起用されていました。奈良さんも招いて映画の上映もできればと、妄想は膨らみました。 その妄想は、2007年10月「荒野のアサイラム」として現実のものになりました。以下は、その時の宮内俊宏さん(タテタカコのプロデューサー)によるレビューです。

【第1夜】タテタカコ @桜坂劇場ホールA

「ここにはあなたがいて、とりとめのない話をするでしょう」 「秘密の物語」の冒頭の一節です。大きな銀幕の前にグランドピアノが設置されている光景はとても不思議で、映画館の日常としてはありえないものです。そして映画館の客席というのはゆったりとした孤立性の高いもので、あまり会場全体の一体感はなく、ひとりの世界が守られる。その雰囲気が「秘密の物語」の一節を思わせたのだと思います。

そんな雰囲気の中でゆったりとタテタカコの独演に対峙するのは、とても理に適った出来事でした。3日間の不思議な体験の始まりです。明日から始まる映画、8年ぶりに実現する沖縄でのイースタンユース。この3日間に起こる出来事の間に流れているいろいろなアイディアのエネルギーを予感させながら、タテタカコの演奏は淡々と進みました。

終演後の劇場エントランス+テラスではCDやTシャツ、足袋下などのタテタカコ関連商品を買い求める人達が遅くまで賑わい、タテさんのサインを求める人達の列が道を挟んだ向かいにある希望ヶ丘公園の方まで続きました。ここではのんびりと夜が更けます。

【第2夜】NARA:奈良美智との旅の記録 @桜坂劇場ホールB

映画の公開初日に併せたトークイベントが、夕方上映の合間に行なわれました。

1年半ものあいだ奈良さんに密着して世界中を巡る旅と仕事を記録し続けた坂部康二監督と、奈良さんの少年期からの友人、巨大プロジェクト「A to Z」の起点から伴走した弘前のロックオヤジ、アサイラムという不思議な磁気を帯びたロックバー店主の斉藤浩が登場。奈良美智とイースタンユースとタテタカコを映像作品という表の部分で繋いだのが坂部さん。奈良さんに、そして坂部監督に、イースタンユースやタテタカコの存在を伝えて裏の部分で繋いだのが斉藤さん。この3日間のいわば表と裏の蝶番ともいうべきふたりです。

このふたりが繰り広げるいろいろな裏話が面白く、満場、立見まで出たホールBは終始高揚した明るい空気に満たされていました。途中でタテさんと吉野さんが登場して、それぞれの奈良美智観を語った後、いよいよ奈良さんが電話で登場。奈良さんからは数週間前に「荒野のアサイラム2007」へ向けたコメントが届いていました。ちょうど1年前のこの日が「AtoZ」の閉幕した日であり、奈良さんは弘前で、会場となった「レンガ倉庫」の前庭で記念イベントが開催されているために沖縄へ来ることは叶わなかったのでした。斉藤さんが自分の携帯電話で奈良さんを呼ぶと、受話器の向こうから、たったいま上映された映画と同じイントネーションで、奈良さんの声が聞こえて来たのです。会場は、とても嬉しい気分に包まれました。

【第3夜】イースタンユース @club MND

8年ぶりに沖縄でライブするイースタンユースをとても大勢の人が待っていたのだということがはっきりとわかりました。

桜坂劇場を北西の方角に下った「むつみ橋」交差点、OPAの最上階にある「クラブムンド」に場所を変えて行なわれたライブはほぼ満員。けれど、その人数よりもなによりも、ライブが始まった瞬間に迸った計測不能、正体不明のエネルギーが、その待っていた気持ちの強さを表していたと思います。

「イベントが終わってしまうのが悲しくて」涙ぐんだタテさんの演奏に続いて、イースタンユースのライブは「夏の日の午後」から始まりました。マイナー・コードの循環を単音で弾きながら吉野さんの訥々としたぼやきが始まり、口笛が入り、歪んだギターのカッティングで本イントロが始まったとたんに、会場のすべてが一気に最大振幅まで跳ね上がったのです。なんだか、この日の吉野さんのギターアンプは素晴らしく良い音で鳴っていたように思います。この曲はいわゆる「サビ」までのストロークが短く、ストレートにコンパクトに最高潮に達します。「蝉時雨と午後の光?」という言葉が聞こえたとたん、なぜか、僕は一気に涙が欠壊しました。えっ!?なんだろう、これは。ライブを見ながら泣いた経験はほとんどありません。何に突き動かされて涙腺が崩壊したのでしょうか、あれれれ。

僕は別に沖縄で8年ぶりのイースタンユースを心待ちにしていたわけではありません。たぶん、待ち望んでいた満場の人々の嬉しいエネルギーが、そういう感動を生んだのだと思います。これは素晴らしい体験でした。素晴らしい夜でした。そして、素晴らしい3日間でした。

このイベントは一際強烈に僕たちの記憶に残りました。人のアイディアがエネルギーを持っていることを強く確信した3日間でした。弘前発、飯田、東京、そして沖縄。アイディアは地理的な距離を一気に飛び越えて殺伐とした荒野に新しい局面を生み出します。その可能性があると思います。